漢検はなぜ叩かれるか
ここ最近、財団法人日本漢字能力検定協会(漢検)の疑惑にかかる報道が相次いでいる。この手のバッシングはとかく集中的、扇動的になりがちなので、ここで自分なりに考え方を整理してみたいと思う。
まず、公益法人として何が問題だったのか。従前からの民法第34条で設立された公益法人に対しては、国が取り決めた指導監督基準に従う必要があるのだが、その中の一つに、「対価を伴う公益事業については、対価の引下げ、対象の拡大等により、収入・支出の均衡を図り、当該法人の健全な運営に必要な額以上の利益を生じないようにすること」という基準がある。漢検は、検定ブームの波に乗って検定料で多大な利益が出るようになったにもかかわらず、検定料を下げるでもなく、参考書を安い価格で提供することもなく、利益をどんどんため込んでおり、指導監督基準違反となっている。これが第一点。
次に、そうして法人が上げた利益が、役員個人や役員の経営する会社に渡っているのではないかという疑惑が取り沙汰されていることが挙げられる。これについては、公益法人に限らず、株式会社であったとしても、役員個人が私腹を肥やせば横領、役員個人の会社に利益供与すれば背任となる可能性がある。これが第二点。
さらに、こうした役員個人の暴走を抑制するために理事会・評議員会といった機関が設置されているのだが、実際上これらが機能していなかった、ガバナンスに問題があったということが第三点。これは公益法人だろうが株式会社だろうがおよそ団体・組織というものに付いて回る問題だ。これについては以前から、自治というのは自由なように見えて実は大変責任が重いし面倒なことなことだと示してきた見解に通じるものがある。
このうち、第一点については、実はこれが株式会社であれば何の問題もなかった。株式会社は利益を上げてなんぼである。この点、漢検は漢字を学んで試験を受けることをこれ程までに盛り上がらせ、大きな利益を上げたのであり、ビジネスモデルとしてはむしろ賞賛に値するものであろう。しかし、公益法人は本来不特定多数の人の利益を実現すること目的に設立を認められた法人であり、そうした世のため人のためになるような事業は大概は儲からないため、その見返りとして税制面での優遇が認められてきたものである。儲かるのであれば公益法人でやる必要はなく、株式会社でやればよかったのである。きちんと儲けの何割かを税金として納めた上でジャンジャン儲けていれば、非難される筋合いのものではなかった。実際、営利企業でありながら同時に社会的貢献も果たしている株式会社もあまたあるのである。
ところで、最後になぜこの時期に漢検が狙い撃ちにされたのかが個人的にはややいぶかしいところである。当該財団が指導を受けているのは今回に始まったことではなく、数年前からの話である。昨年12月から公益法人制度が108年ぶりに大改正され、民法第34条ではなく、新しい法律によって公益法人制度が律されることとなったが、漢検のようなケースだと、新制度での公益法人たる基準を満たせないこととなる。こういう問題法人についての注目を向けるための恰好の餌食にされたのだろうか。
さらに、漢検が叩かれるのは仕方ないにしても、本当はもっと叩かれるべき公益法人があるということを忘れてはならない。国がある法律・制度を作り、その制度を維持するための公益法人を作り、補助金がジャブジャブと注ぎ込まれ、官僚の天下り先として利用されているものが少なからずあるのだ。昨今の道路特定財源関係の問題で取り沙汰されたばかりのことである。漢検の方が国や地方の補助金を一切受けていない分だけまだましとも言える。これには公務員の人事制度も絡んでくる話なのでまた後日機会があれば論じてみよう。
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コメント
どうもです。
ニュースすらちゃんと見てないし、新聞に至ってはとってもいないので「聞くだけ小僧」になってしまって申し訳ないのですが、、、
役員(理事?)の関連会社へ回った分ってのは、「利益」として計上されている分なんですかね?それともそれとは別に「利益」があるんだろうか?別だとしたら、「ふつうの場合の利益」は倍以上になっているとおもうのだけど。
で、なんで「漢検」だけなのかというと、他の法人への批判をさせないために注目を集めるようなことをワザとされているんでははないかと危惧しております。注目されたらまずいところは山ほどありそうですしね。。。いや、具体的にはしらんけど。
投稿: ひらの | 2009/02/13 12:20
コメントありがとうございます。
こちらも報道内容を見た限りでの話ですが、財団が発注する業務を全てその役員関連会社に回すけれど、実態はペーパーカンパニーなので、結局財団の職員にやらせるか余所に丸投げしているようなので、本来はもっと安く済むはずだった財団の経費をぶんどっていることになります。つまりそれがなければ財団の利益であった分が関連会社に持っていかれたことになります。
ただ、漢検は霞ヶ関の天下り法人とは別物なんですよね。たまたま今日夕方TBS系列でやってた番組で天下り法人に関係するネタを扱っていました。
投稿: くりりん | 2009/02/14 21:45